東京・上野公園を歩いていると、美術館や博物館が並ぶ文化エリアの中に、
ひときわ存在感のある建物が現れます。
それが国立西洋美術館です。
多くの人はモネやルノワール、ピカソなどの名画を鑑賞するために訪れますが、
この建物そのものが世界遺産に登録されていることをご存じでしょうか。
設計を手掛けたのは、近代建築の巨匠ル・コルビュジエ。
20世紀の建築史を大きく変えた人物であり、
現在の都市建築や住宅設計にも大きな影響を与えています。
私も実際に訪れましたが、美術作品だけでなく、
建物内部を歩いているだけでも空間そのものを楽しめる美術館だと感じました。
今回は、世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産である国立西洋美術館を紹介します。
ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献 (The Architectural Work of Le Corbusier, an Outstanding Contribution to the Modern Movement)
2016年 世界文化遺産登録
「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献」は、
20世紀の建築史に革命をもたらした建築家ル・コルビュジエの代表作品群を対象とした世界遺産です。
登録対象はフランス、スイス、ドイツ、ベルギー、アルゼンチン、インド、日本の7か国17資産で構成されています。
住宅、集合住宅、宗教建築、工場、文化施設など多様な建築が含まれており、
ル・コルビュジエが生涯を通じて追求した近代建築思想の発展過程をたどることができます。
複数の国にまたがる世界遺産として登録されたことも特徴で、
大陸を越えて共有される近代建築の価値が評価されました。
世界遺産に選ばれた理由
ル・コルビュジエは、鉄筋コンクリートを活用した新しい建築手法を確立し、
20世紀以降の建築デザインに大きな影響を与えました。
彼が提唱した「近代建築の五原則」は世界中の建築家に受け継がれ、
現在の都市建築や住宅設計にも数多く採用されています。
また、建築を単なる建物ではなく、
人々の生活や都市そのものを変える存在として捉えたことも高く評価されています。
国立西洋美術館は、その思想を日本で体現した貴重な作品として世界遺産の構成資産に選ばれました。
歴史的背景
19世紀末から20世紀初頭にかけて、
産業革命による技術革新によって建築のあり方は大きく変化しました。
それまで主流だった石造建築やレンガ造建築に代わり、
鉄筋コンクリートや鉄骨構造が普及し始めます。
その変革期に登場したのがル・コルビュジエでした。
彼は建築に装飾を求めるのではなく、機能性と合理性を重視し、
人間が快適に暮らすための空間づくりを追求しました。
その思想はヨーロッパだけでなく世界各国へ広がり、
日本でも前川國男、坂倉準三、吉阪隆正といった弟子たちを通じて近代建築の発展に大きな影響を与えています。
構成資産(7か国17物件)
| 名称 | 所在地 |
|---|---|
| ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸 | フランス |
| レマン湖畔の小さな家 | スイス |
| ペサックの集合住宅 | フランス |
| ギエット邸 | ベルギー |
| ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅 | ドイツ |
| サヴォア邸と庭師小屋 | フランス |
| イムーブル・クラルテ | スイス |
| ポルト・モリトーの集合住宅 | フランス |
| マルセイユのユニテ・ダビタシオン | フランス |
| サン・ディエの工場 | フランス |
| クルチェット邸 | アルゼンチン |
| ロンシャンの礼拝堂 | フランス |
| カップ・マルタンの休暇小屋 | フランス |
| チャンディガールのキャピトル・コンプレックス | インド |
| ラ・トゥーレット修道院 | フランス |
| 国立西洋美術館 | 日本 |
| フィルミニの文化の家 | フランス |
ル・コルビュジエ(Le Corbusier)とは
ル・コルビュジエはフランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと並び、
「近代建築三大巨匠」の一人として知られています。
スイス生まれで後にフランス国籍を取得し、
建築家だけでなく都市計画家、画家、デザイナーとしても活躍しました。
彼の最大の功績は、鉄筋コンクリートを活用した合理的な建築理論を体系化したことです。
建築を芸術作品としてだけでなく、
人々の暮らしを支える機械として捉えた考え方は、当時としては非常に革新的でした。
また、「近代建築の五原則」や「モデュロール」といった独自理論を生み出し、
現在の建築設計にも大きな影響を残しています。

彼の歴史上の功績は、今までの石やレンガを積み上げる建物が主流の中で、鉄筋コンクリートを利用し、
装飾のない平滑な壁面処理、伝統から切り離された合理性を信条とした「モダニズム建築」という
確信的な建築物を生み出したことです。
彼のもとには、日本から前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の3名が師事し、帰国後、「日本の3大弟子」として
日本の近代建築に大きな功績を残しました。
メゾン・ドミノ 1914年~
鉄筋コンクリート製の柱と床板で建物の荷重を支え、階段で上下階をつなぐ単純な構造で作る考え方です。
石やレンガを積み上げて壁を建てることで、建物を支える旧来の建築とは違い、
柱で床を支えることで外壁や間仕切り壁(内壁)を取外しや移動が可能となり、自由な間取りをデザインすることができます。

近代建築の5原則 1926年~
ル・コルビュジエは、建築材料や建設方法などの技術的な側面と生活を豊かにする仕組みの両方を実現することを考え、
近代建築を成り立たせる要点を5つをまとめました。
- ピロティ
柱で建物を持ち上げてできた空間で、人も風も自由に行き来できる空間です。

- 屋上庭園
雪や雨を落とすために勾配屋根で覆われていた旧来の建物とは違い、鉄筋コンクリートによる水平の屋根に
植物を植えることで、豊かな屋上空間を生み出しています。

- 自由な間取り(平面)
柱で床を支えることで、間仕切り壁(内壁)は、取外しや移動が可能となり、自由な間取りやデザインすることができます。

- 横長の窓(水平に連続する窓)
壁面の横幅いっぱいにあけられた窓からは、部屋の隅々まで均一な光を取り込むことができます。

- 自由な立面(ファサード)
建物の荷重が柱で支えられたことで、外壁やパネルやガラスで自由にデザインすることができます。

モデュロール(Modulor)
ル・コルビュジエは、人間の身体寸法を基準とした独自の尺度体系「モデュロール」を考案しました。
身長183cmの男性と黄金比を基準に設計されたこのシステムは、
建築空間に統一感や心地よいリズムを与えることを目的としています。
国立西洋美術館にも、この考え方が取り入れられています。

国立西洋美術館(National Museum of Western Art)
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7−7
| 時間(常設展示) |
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| 料金(常設展示) |
|
| 定休日 |
その他、臨時に開館・休館することがあります。 |
| 公式URL | 国立西洋美術館 (nmwa.go.jp) |
実際に訪れた際のチケットです。
館内では、世界的に知られる画家たちの作品も鑑賞できます。

国立西洋美術館の見どころ(National Museum of Western Art)
国立西洋美術館は1959年に開館しました。
フランス政府から返還された松方コレクションを収蔵するために建設され、
日本で唯一ル・コルビュジエ自身が設計した建築物として知られています。
建物は「無限成長美術館(Museum of Unlimited Growth)」という構想に基づいて設計されました。
中心部分を核として必要に応じて外側へ増築できる設計となっており、
未来の拡張性まで考慮されています。
来館者は中心部から渦巻き状に展示室を巡る構造となっており、
自然な流れで作品を鑑賞できるよう工夫されています。

下記が、無限成長建築のコンセプトです。


ピロティ
建物正面には近代建築の五原則を象徴するピロティが設けられています。
開放感のある空間は上野公園の風景とも自然に調和しており、美術館へ入る前からル・コルビュジエ建築を体感できます。

19世紀ホール
建物中央に位置する吹き抜け空間です。
館内の核となる場所であり、2階や中3階へと視線が広がる立体的な構成が特徴です。
ル・コルビュジエが好んで用いたスロープも設置されており、移動しながら空間の変化を楽しむことができます。
また、柱や梁には木製型枠の木目が残されており、コンクリート建築でありながら温かみも感じられます。

ル・コルビュジェが多くの建築作品で用いた斜路は、登につれて、段々と景色が変わっていきます。
柱の奥に見え隠れる絵画作品や見え方が変わる三角形の天井など空間の変化を楽しみながら移動することができます。
建物を支える柱と梁は、姫小松という型枠に流し込んで作られたため、木目が美しく浮き出ています。
2階展示室
19世紀ホールを取り囲むように配置された展示室です。
天井の高低差や壁の配置によって視界が変化し、単調にならない展示空間が作り出されています。
建築そのものを楽しみながら名画を鑑賞できるのも、この美術館ならではの魅力です。


建物ばかりでなく、本来の美術館としても見ごたえ十分なので、作品群を少しまとめてみました。
所蔵作品の見どころ
館内には中世から20世紀までの西洋美術作品が数多く展示されています。
作品群
代表的な作家と私が印象に残った作品を紹介します。
クロード・モネ
船遊び 1887年
印象派の巨匠モネは、生涯にわたって戸外の光の表現を追求し、近代風景画に革新をもたらしました。
本作は、後にモネの妻となるアリス・オシュデの娘たちが川で舟遊びを楽しむ風景が描かれており、
モネが繰り返し手掛けた同主題の中でも特に完成度が高いものです。
小舟を半分に断ち切った大胆な構図は、日本の浮世絵から学んだものと言われています。
しかし、なによりもモネの関心は、画像全体を広がる水面に映った、揺らめく光と影の色彩表現に注がれています。

パブロ・ピカソ
小さな丸帽子を被って座る女性(1942年)
本作は、ピカソの当時の愛人ドラ・マールの肖像で、ナチス占領下のパリで、1942年4月21日に描かれたとされています。
帽子をかぶってひじ掛け椅子に座る女性の胸像は、画家が彼女をモデルに繰り返し取り組んだ構図ですが、
本作は、その中でも完成度が高い1点です。
ピカソ特有のデフォルメは、最小限に留められ、比較的調和のとれた正面観の頭部と
大きく描かれた両手が目をひきます。寒色を基調とした色彩や、ドラ・マールがこちらに向けるまっすぐな視線を
相まって、厳粛で力強い印象を与える作品です。

ぺーテル・パウル・ルーベンス
眠る二人の子ども(1612-13年)
ルーベンスは、17世紀フランドル(現ベルギー)美術を代表する大芸術家です。
本作のモデルは、画家の兄の二人の子どもたちであると考えられています。
おそらく大型油彩画のための習作として描かれたため、画家の素早い筆運びや子供のほほの肉付けなど
が鮮やかに残されています。
透明色と不透明色との使い分け、明暗の色調や絵の具の厚みなどによって対象を見事に描出するルーベンス
の写実法がよく発揮された作品です。

イスラエルに旅行に行ってからキリストのシーンが描かれた絵画になんとなく目がいってしまいます。





アクセス
JR利用
JR上野駅公園口から徒歩約1分。
駅を出るとすぐ目の前にあります。
東京メトロ
- 銀座線・日比谷線「上野駅」徒歩約8分
京成電鉄
- 京成上野駅 徒歩約7分
上野動物園、東京国立博物館、東京都美術館なども徒歩圏内にあるため、
一日かけて上野文化エリアを巡るのもおすすめです。
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旅の終わりに
国立西洋美術館は、名画を鑑賞するための美術館であると同時に、
世界遺産として登録された建築作品そのものでもあります。
モネやピカソ、ルーベンスといった名画を楽しみながら、
ル・コルビュジエが追求した近代建築の思想に触れられる場所は日本でもここだけです。
上野公園を散策するつもりで訪れても十分楽しめますが、
ル・コルビュジエの建築理論や世界遺産としての価値を知ってから歩くと、建物の見え方は大きく変わります。
美術作品と建築作品を同時に味わえる国立西洋美術館。
東京観光はもちろん、世界遺産巡りが好きな方にもぜひ訪れてほしい場所です。
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