カンボジアの伝統芸能として最も広く知られているのが、
アンコール遺跡観光とセットで楽しまれる
アプサラダンスです。
宮廷文化を背景に持ち、
優雅で神話的な世界観を表現する舞踊については、
下記の記事で詳しく紹介しています。
▶︎ カンボジア伝統舞踊「アプサラダンス」の歴史と見どころ
https://weekend-abroad-travelers.com/asia-oceania/cambodia/siem-reap-sightseening/apsara-dance/
一方で、
アプサラダンスとは対照的に、
庶民の暮らしや笑いを題材として発展してきた芸能が存在します。
それが、
シュムリアップ発祥の影絵芝居「スバエク・トーイ(Sbek Toch)」です。
アプサラダンスが
「王侯貴族と神々のための舞踊」
であったのに対し、
スバエク・トーイは
「人々の日常に寄り添う語りの芸能」
として親しまれてきました。
アプサラダンス
→ 儀礼・宗教・宮廷文化
スバエク・トーイ
→ 農民の生活・風刺・ユーモア
この二つを知ることで、
カンボジア文化は立体的に理解できるようになります。
スバエク・トーイは、牛皮などで作られた小型の影絵人形を操り、
スクリーン越しに光で影を映し出して演じる伝統芸能です。
スバエク・トーイの特徴
宮廷文化色の強いアプサラダンスとは対照的に、スバエク・トーイは民衆の芸能として親しまれてきました。
スバエク・トーイで演じられる物語は、主に以下の2系統があります。
特にラーマ・ヤナを題材にした演目では、英雄・悪役・道化役が入り混じり、シリアスとユーモアが巧みに交差します。
あまり知られていませんが、
シュムリアップはカンボジア影絵文化の発祥地とされています。
アンコール王朝時代から続く宗教観・神話世界と、
農村文化が融合する中で、スバエク・トーイはこの地で育まれてきました。
「アンコール遺跡=石の世界」
その裏側には、語り・光・影で紡がれる民衆文化が存在していたのです。
私が訪問した当時、シュムリアップ市内では
バイヨン1レストランで、食事をしながらスバエク・トーイを鑑賞することができました。
※現在、同レストランは移転しておりスバエク・トーイの公演は行われていません。
料理を楽しみながら、スクリーンに浮かび上がる影絵。
途中で舞台裏に回ると、影を操っているのは子どもたち。
小さな手で人形を動かし、
一生懸命に演じる姿がとても愛らしく、
この芸能が「生きた文化」であることを実感しました。
残念ながら現在、
シュムリアップ市内で定常的にスバエク・トーイを鑑賞できる場所はありません。
観光の中心が大型ショー(アプサラダンス)へ集約される中で、
スバエク・トーイは徐々に表舞台から姿を消しつつあります。
今では現地で見ることができなくなったスバエク・トーイ。
だからこそ、当時撮影した動画は、かけがえのない記録になりました。
遺跡は残っても、芸能は「演じる人」がいなければ消えてしまう。
スバエク・トーイは、
そんな無形文化遺産の儚さを教えてくれます。
現在は現地で鑑賞できないため、当時撮影したスバエク・トーイの様子を動画でご紹介します。
アンコール遺跡という石の世界が語り継がれる一方で、
スバエク・トーイのような光と影で紡がれる文化は、静かにその姿を消しつつあります。
今のシュムリアップでは、
この影絵芝居を実際に鑑賞することはできません。
だからこそ、かつて確かに存在し、
人々に笑いと物語を届けていたスバエク・トーイの記憶は、
旅人の視点から記録しておく価値があると感じます。
遺跡は修復され、未来へ残されていきます。
しかし、無形の文化は演じる人がいなければ失われてしまうものです。
アンコール・ワットを訪れる際には、
その壮麗な建築の裏側にあった
庶民の暮らしや語り、そして影絵文化にも、
ぜひ思いを巡らせてみてください。
それは、
「遺跡を見る旅」から
「文化を感じる旅」へと、視点を一段深めてくれるはずです。